ぼくらの事情
「絆ちゃん学校に来てるみたいだな、響生ー」
でかしたでかしたと笑う父に、加治原家の無駄に広い食卓で、お抱えシェフが作った夕食を食べていた手が思わず止まった。
まさに今、響生の頭の中を占めていた名前が出されて顔が分かりやすく固まる。
「どうかしたのか?」
「いや……」
って言いながらも、さっきから何度も箸からおかずを落っことしている響生を訝しそうに見つめた。
絆の名前を出した途端、明らかにおかしくなった息子の動きに、
「まさか……おまえ、絆ちゃんが若い頃の雅さんそっくりで可愛いからって手を出したんじゃあ……」
雅さんに殺される……。
と、何とも物騒なコトを呟きながら、父は握っていた箸を食卓に落とした。
「勝手なコト言ってんじゃねぇよっ! 俺は……」
悲壮な顔で頭を抱える父に、バンッと食卓を叩いて立ち上がるも、
「俺は……なんだ?」
「…………」
手を出してないと言い切るには、心当たりがありすぎて思わず口を噤んでしまう。
そんな息子の態度は肯定としか受け取れず、父の顔は見る見る青白くなっていった。