ぼくらの事情
「あれほど手は出すなって注意したのに……まさかものの二日で……あぁ」
再び頭を抱えて悲壮感にどっぷり浸かる父に、掛ける言葉も見付からない。
もう食事を楽しむ空気なんて微塵も残っていない食卓に、どこから取り出したのか亡くなった母の遺影を出し、
「わたしの育て方が悪かったばかりに……。お兄ちゃんは出て行ったまま帰って来ないし、響生は他人様の大事な娘さんに手を……」
先立たれた妻に涙ながらに頭を下げる姿は、さすがの息子も目も当てられない。
思えば五年前。
大学を卒業したばかりの兄がふらっと出て行った時も、三日三晩こうして母の遺影に謝っていた。
「許して、澪生(みお)さんっ」
「…………」
写真の中の母は、生前と変わらず優しい笑みを浮かべている。
そんな母や父から目を背けるように、響生は席から立ち上がった。
母が亡くなってから六年。
それまで家族の要だった人物が居なくなったコトで、この家は随分と変わった。
父は母の死を忘れるように、より一層仕事に打ち込み、
父親に縛られるのを嫌がり反発した兄は、一年後にふらっと姿を消した。