ぼくらの事情
移り変わっていく風景の中で、子どもの自分だけが取り残された。
足掻いても足掻いても幸せだった時間は戻らず、ただ母が褒めてくれたコト。
勉強やスポーツを頑張ってきた。
そうすれば、父も喜んでくれるのがわかってたから、響生はひたすらに上だけを目指していた。
だから、初めは絆が嫌いだった。
親に反発して学校をサボり、学力も悪い。
自分と真反対の人間に、初めは嫌悪感を抱いていたのに……。
優等生の自分を散々鬱陶しそうにあしらったり、それでいて突然優しくして来たり……。
気が付けば、あんなに馬鹿にしてた人間に振り回されてる滑稽な自分が完成していた。
「はぁ……」
こんな自分を見て、死んだ母はなんて言うだろうか。
そっと目を閉じて、母親の顔を思い出してみる。
思えば自分はこの人の、優しくて穏やかな笑顔しか見たことがない。
だからきっと、今の自分にも優しく笑ってくれるんだろう……。
優しく笑って、
「男の子なんだからしっかりしなさいっ!」
って、父のように頭を叩かれるだろう。
「…………」
痛くないはずの頭をさすりながら、響生は自分の部屋へと戻っていった。