ぼくらの事情
呆れたように溜め息を付いた後、響生が不意に扉の方に顔を上げると、
「……もう入っても良いの?」
「っ!?」
何故か開いていた扉の前には、今から呼びに行くはずの絆が立っていて、驚きのあまり言葉を失った響生は、
「あっ! 響生っ!」
バタンと扉を素早く閉め、絆が目の前に居たことをとりあえず無かったことにしてみる。
「何してんの響生っ!!」
そんなことをしたところで、無かったことになんてなるはずもない。
「ここちゃんごめんねーっ!」
ドアノブを握り締めた響生を押し飛ばし、咲奈が慌てて扉を開けて絆を招き入れた。
「呼ばれたから来ただけなのに……」
一方的に呼び出され、来るや否や閉め出された。
驚きと不快感で絆の顔は、如何にも不機嫌そうにしかめられている。
「まだ呼び出してねぇよっ」
「あっ。呼び出したの俺だよ」
こう言ってヘラッと笑いながら片手を挙手してみせた架を、響生はどこか不満そうな面持ちで一瞥した。
「だって響生、全然行く気配なかったしさ」
咲奈と響生が初めてのお使いごっこをしている間に、見かねた架が絆にメールを送っていたという寸法だ。