ぼくらの事情
言うコトを聞けば父親が喜ぶ。
頑張れば母親が褒めてくれる。
両親の目が自分に向いていれば、兄は自由にしていられる。
そうすれば、ずっと……家族は笑って居られる。
そう信じていた。
だから、自分は頑張ってきたのに……。
「響生……響生ってば」
「えっ?」
教科書片手にぼんやりとノートを見つめていた響生の肩が軽く揺すられる。
ふっと我に返って顔を上げれば、シャーペンを握った絆が訝しげに顔を覗き込んだ。
「なっ、何だよっ」
「さっきから呼んでるのに」
授業終わってから生徒会室で勉強会をしよう、と提案した咲奈は架を連れて無責任にもどこかへ行ってしまった。
やむを得ずこうしてマンツーマンで絆の勉強を見ていたものの、朝の一件から五年ぶりに再会した澪路のコトが頭から離れない。
「ここの問題なんだけど」
「なんで学校来るの嫌がってたんだよ」
「えっ?」
さっきまでぼんやりしていたかと思えば、何の前触れも無くされた質問に絆は目をぱっと見開いた。