ぼくらの事情
真っ直ぐに自分を見つめてくる響生から目を逸らし、手に持っていたシャーペンをノートの上に置いた。
「ママの事務所で働きたかったの。澪ちゃんと一緒に」
思いがけず出された澪路の名前を口にする絆の顔が、いつもより柔らかい気がして面白く無い。
今朝の玄関でも、自分たちになんて見向きもしないくらい澪路ばかりを見ていた。
「中学の時はずっと澪ちゃんが家に居てくれたから……離れたくなくて」
こう言って澪路のコトを想いながら頬を赤らめる様子も、ハッキリ言って見たくなんてない。
「…………」
自分から聞いといてどんどん不機嫌になっていく響生の顔色。
それが全く不可解で絆は落ち着かなげに響生の様子を窺っている。
「……俺が居てやるっ」
「へっ?」
「だからっ! 澪路じゃなくて俺が一緒に居てやるって言ってんだよっ!」
ずっと黙っていたかと思えば、急に真っ赤になりながら大声を張り上げる響生に思わず呆然としてしまった。
「だから……」
「だから、澪ちゃんのコト返してって言うの?」
何がいけなかったのか、響生の言葉は絆の表情を悲しげなモノに変えてしまった。