ぼくらの事情
「響生ー」
澪路の存在にも気付かず、真っ直ぐ歩き続ける響生を咲奈が走って呼び止めに向かう。
取り残された澪路は、
「ほらっ」
手に持っていた袋からペットボトルを一本取り出して、架に投げつけた。
「俺らのコトわざわざ待ってた? 気持ち悪ッ」
受け取ったペットボトルは少し汗をかいていて、それに目をやった架はワザと毒づいてみせる。
「ちょっと、世間話でもしようかと思って」
「五年分の?」
咲奈に言われて漸く澪路の存在に気付いた響生が、渋々咲奈に連れられながらこちらに向かってくる。
その光景に目を細めた澪路が、傍らでペットボトルに口をつける架を一瞥した。
「架も咲奈もちゃんと響生の傍に居てくれたんだな」
「……澪路さんと違ってね」
大学を卒業して逃げるように家を出た自分。
「響生が今、あぁして楽しく過ごせてるのは二人のおかげだよ」
母親も亡く、家には仕事に打ち込む父親だけになった。
そこに響生を残して逃げ出した。
大切なモノがどんどんと響生の手のひらから零れていく中で、ずっと変わらず残ったモノ。
それが、架と咲奈という幼なじみの存在だった。