ぼくらの事情
「響生、連れてきたよーっ」
「……なんだよっ」
恋敵である兄を不機嫌そうな顔で一瞬見やり、すぐさま視線を外す。
そんな響生を目の前で見ていた澪路は小さく笑い、
「おまえは良い友達に恵まれたなぁ」
五年ぶりにその頭を、思いっ切り手のひらで撫でてやった。
「なっ! やめろよっ!」
久しぶりの感覚と幼なじみたちの手前とあって、照れて真っ赤になった響生が大慌てで澪路の手を振り払う。
その反応一つ一つに成長を感じる兄は、
「照れるな照れるな」
嫌がる響生をヘッドロックで押さえ、更にグリグリと頭を強く撫で回した。
「まさか……響生とじゃれる為だけに待ってたんじゃないだろな」
「いーじゃん。五年ぶりなんだから堅いこと言わないの」
呆れ顔で五年ぶりにじゃれあう兄弟を見ていた架に手渡されたペットボトルを受け取り、咲奈は微笑ましげに二人を見ている。
「アホらしい。俺は帰るよ」
「架ー」
「待てって。話があるんだ」
カバンを握り直し、帰り道に足を進めようとした架に漸く響生を解放した澪路が待ったをかけた。