ぼくらの事情
とりあえず、殴るという穏やかじゃない事態は収拾した。
しかし、問題は澪路の切り出した本題だ。
やたらに絆の名前を出しては、響生たちの神経を逆撫でしているとしか思えない。
「澪路くんも冗談が過ぎるよー。響生の気持ち、気付いてる癖に」
なかなか核心に触れて来ない澪路を、見かねた咲奈が呆れ顔で窘める。
しかし、
「冗談じゃないよ。絆はずっと独りぼっちだった。だから絆の中には俺しか居ないって言ってんだよ」
さっきまでのおちゃらけた空気がまるで嘘の様に澪路の顔は締まり、こう言って真っ直ぐに三人の目を見据えていた。
「小学生の時から寮に入れられて、いざ中学生になって帰ってきた所で母親はほとんど家に居ない。……それが絆が育ってきた環境だよ」
淡々と語られていく澪路の言葉が、生徒会室での絆の言葉に結びついていく。
ずっと一緒に居てくれたから、澪路と離れたくない。
そう言って頬を赤らめた絆の中に居る澪路は、自分たちが思ってる以上に絆の中を大きく占めていることに改めて気付かされる。
そして、絆にとって失いたくない存在だと言ったコトも。