ぼくらの事情
「だったら……俺たちに託したりするなっ! おまえが居てやれば良いだろっ」
絆が一緒に居たいと望むなら、傍に居てやれば良い。
絆の気持ちに気付いて尚、自分たちに委ねようとする澪路に響生は憤りを感じていた。
怒りで鋭くなった響生の眼差し。
それを真っ直ぐに受け入れながら、
「それじゃ絆は何も変わらないだろっ。絆に今必要なのは、ただ傍に居てくれる優しい男じゃない」
「…………」
それでも揺るがない澪路の瞳に、何も言わず自分を見つめ返す響生が映った。
傍らの幼なじみたちはただじっと、次の言葉を待っている。
「今の絆に必要なのは、同じ目線で同じ時間を共有する仲間だ」
変わらない口調と顔色で続けられた言葉に、
「だからって……ここちゃんはきっと納得しないよっ。ずっと一緒に居た癖にそんなの……」
咲奈の頭の中には、五年前のコトがふっと蘇っていた。
一人、また一人と響生の前から消えていく家族。
年の離れた弟を可愛がる兄。
誰よりも沢山、誉めてくれた母親。
家族に想われる分だけ、響生は家族を大切に想っていたのに……。