影を往く者、闇に逝く者-戦国隠密伝-
百合もまた俺の下で働く下忍の一人。

俺の下で隠密としての修行に励み、伊賀忍者の名に恥じぬ一人前になるべく努力している。

「動乱の時代になって、随分と経ちますね…」

物憂げな表情で百合が呟く。

「戦国の雄、武田信玄が病に倒れて早や五年…彼奴めが没した事で、この戦国の流れも少しはおさまるかと期待していたのですが…」

「変わりはせんよ」

俺は腕組みしたまま言った。

武田とて有力ではあったものの、所詮は一武将に過ぎぬ。

たった一人の武将が死んだところで歴史の流れは変わりなどしない。

むしろ邪魔立てする者が一人減った事で、他諸国の大名の動きが活発になるくらいのものだろう。

戦はまだまだ続く。

それこそ、誰かがこの国の天下を取らぬでもせぬ限りは…。

そして戦が続く限り、我ら隠密の需要も高まる。

闇に乗じて暗躍し、情報を集め、時には暗殺をもこなす。

隠密とは諸国の武将にとって、極めて有用な駒なのだ。


< 10 / 192 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop