影を往く者、闇に逝く者-戦国隠密伝-
確かに、今の甲斐様には迷いがあるだろう。

相手は実の父親。

しかも謀反を企てた一因に、自分も関与している。

初代を斬る事にいささかの躊躇はあったかもしれない。

しかし、だからといって生身で忍者刀を受け止めて傷一つ負わないとは…。

「く…」

歯の隙間から声を漏らす甲斐様。

「金属の手甲か」

「左様」

初代の眼が細まった。

手甲とは紺の布や革で作られた、手の甲や手首を覆い保護するもの。

屋外労働や旅行、また武具として用いられた。

別に隠密に限らず、一般の平民や武士なども使用する。

ただ、今の初代が身につけているものは金属製。

故に刃をも受け止める事が出来る。

「それに」

甲斐様の忍者刀を弾き返し、初代は身を翻す。

「こういう使い方もある!」


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