影を往く者、闇に逝く者-戦国隠密伝-
「ちぃっ!」

甲斐様もやられっ放しではなかった。

目突きに来た初代の腕を取り、柔術でいう巴投げ!

投げ飛ばされた初代であったが、彼は宙で身を翻して見事に着地する。

「……!」

立ち上がる甲斐様。

…私は言葉もなかった。

実の息子の目を、迷いなく潰そうとした。

これが父親のする事なのか。

いや…初代の目的は甲斐様を殺す事だと言っていた。

ならば目を潰す事くらい、何の躊躇いがあろうか。

だが、甲斐様は明らかに気圧されているようだった。

親に命を狙われるという事実。

その絶望。

無償の愛を注いでくれる筈の父親が、その野心の為に息子を殺そうとする。

戦国の世では珍しい事ではない。

しかし、だからと言って簡単に許容できる事ではなかった。


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