影を往く者、闇に逝く者-戦国隠密伝-
「軟弱だな」

構えを解き、初代がゆっくりと歩を進める。

それに対してジリジリと後退する甲斐様。

それがそのまま、両者の気迫の差を表していた。

甲斐様は完全に呑まれてしまっている。

戦わずして勝負ありといった所か。

初代が近づく度に、同じ分だけ甲斐様が下がる。

詰め寄る初代。

退く甲斐様。

やがて、甲斐様の足が止まる。

…初代の圧力に押されて下がるうちに、いつの間にか追い詰められていた。

甲斐様の足元…その一寸先には断崖が迫っていたのだ。

相当な高さの絶壁。

隠密の身体能力ですら、生き残れるかどうか怪しい。

それほどの深い谷だった。

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