影を往く者、闇に逝く者-戦国隠密伝-
「父上…!」

甲斐様が呟く。

その声色は懇願。

命乞いにも聞こえる。

強く凛々しい甲斐様がそのような声を上げるなど…。

少なくとも私は初めてその声を聞いた。

…だからといって軽蔑などできない。

甲斐様は初代に負い目を感じている。

ここまで初代を追い詰めたのは己のせいだと感じている。

その己が、何故初代を倒す事ができるのか。

その迷いから発せられる声。

「弱い…弱い弱い弱い弱い弱い弱い!」

嘲りにも似た声で初代は叫んだ。

「やはりこの世に『下山甲斐』は俺一人のみ!貴様のような軟弱な隠密など、最早俺の子ではない!下山家の恥さらしめ!」

< 107 / 192 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop