影を往く者、闇に逝く者-戦国隠密伝-
休息も終わり、俺と百合は修練を終えて里へと戻る。

山深い場所にある、どの勢力にも属していない数千人の集まる集落。

それが伊賀の里。

隠密発祥の地であり、戦国とは一見無縁の平穏な村だ。

「あー、ゆりねえちゃんだー」

「しもやまのこがしらさまもいるー!おかえりなさーい!」

冬空だというのに外で元気よく遊びまわっていた里の子供達が、帰って来た俺達を出迎えてくれる。

この子供達もまた隠密候補生。

遊びや両親の手伝いの中で少しずつ忍としての知識を得てゆき、やがては一人前の隠密となっていく。

「ねぇ、ゆりねえちゃん」

一人の子供が、帰って来たばかりの百合の手を引いた。

「あそこに、おはながあるの」

子供が指差した先。

そこには確かに、この季節には珍しく花が咲いていた。



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