影を往く者、闇に逝く者-戦国隠密伝-
私は飛んだ。

甲斐様の後を追うように。

底すら見えぬ谷へと、その身を投げた。

『愛しい男の後を追うか…愚かな』

侮蔑の眼差しを向ける初代の姿が、一瞬視界に入る。

……勘違いをしてもらっては困る。

私は深い断崖絶壁を落下しながら思う。

死ぬものか。

私も、甲斐様も。

絶対に死ぬものか!!

甲斐様は生きている。

私が必ず助け出す。

そう、私は救出の為に谷に身を投げたのだ。

共に生き延び、必ずや伊賀の里で討ち死にした同胞達の無念を晴らす。

その為だけに、今は死地へと身を投じたのだ…。

< 110 / 192 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop