影を往く者、闇に逝く者-戦国隠密伝-
天正十年(1582年)。

第二次天正伊賀の乱から一年が過ぎていた。

…あの日、甲斐様を追って谷底へと身を投げた私。

谷底には激流が流れていた。

凄まじい河の流れに飲まれつつ、私は必死に泳いで甲斐様を探した。

身の危険を顧みず、激しい渦の底にまで潜って甲斐様の姿を見つけようと必死だった。

甲斐様は死んではいない。

きっと命を取り留め、どこかにいる。

そう信じて疑わなかった。

しかし…遂に甲斐様は見つからなかった。

激流の先には滝壺があった。

あの滝壺に飲み込まれれば、たとえ身体能力に優れた隠密でも助かるまい。

頭の中では否定しつつも、心のどこかで認めていたのかもしれない。

甲斐様は恐らく、あの滝壺に飲まれたのだ。

そして…。

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