影を往く者、闇に逝く者-戦国隠密伝-
「流石ですね…毒百合さん…噂はかねがね」

「そこの木の幹に両手をつけ。足は大きく開いて。妙な真似をしてみろ、喉笛を切り裂く」

男の世辞など聞こえなかったように、私は指示を出す。

男も抵抗する様子は見せず、おとなしく私に従った。

…相変わらず苦無は喉元に突きつけたまま。

「お前は何者だ」

もう一度尋ねる。

「依頼人です」

振り向かず男は答えた。

「貴女の腕を見込んで、暗殺を依頼したい」

「……」

何度も繰り返すが、殺しは好きではない。

ましてや恨みもない相手を殺す暗殺は尚更だ。

今は金に困っていない。

無理にこの依頼を受ける理由もない。

だが、話だけは聞いておく気になった。

「誰を暗殺させる気だ」

「……」

男は顔だけをこちらに向け、薄く笑った。

「織田上総介信長」

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