影を往く者、闇に逝く者-戦国隠密伝-
その名に身を固くした。

信長。

今や天下統一をほぼ為し得たといわれるこの国で最強の武将。

そして伊賀の里を滅ぼした、私にとっての仇の一人。

その信長を殺せというのか。

「大それた依頼だな…一隠密程度に、あの六天魔王が暗殺できると思うか?」

普通に考えればわかる話だ。

天下布武を果たすほどの武将ならば、その警護も並大抵ではない。

奴の居城に潜入する事すら困難だというのに、暗殺ともなれば容易い仕事の筈がない。

「それならば問題はない」

男は言った。

「近いうちに、信長に対して挙兵する者が現れる。貴女はその混乱に乗じて信長めの許に忍び入り、暗殺を実行すればいい…」

挙兵する者が現れる…だと?

天下はほぼ信長の手中におさまったも同然。

この状況下で、信長に喧嘩を売る者がまだいるというのか?

「お前…」

私は苦無を握る手に力を込めた。

この暗殺依頼、この男の独断ではない。

この男の背後に、黒幕がいる筈だ。

「お前の飼い主は誰だ?お前は誰に頼まれて、私に暗殺を依頼しに来た?」

「…流石に鋭い」

男は再び薄笑みを浮かべる。

「我が主君の名は…明智光秀」


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