影を往く者、闇に逝く者-戦国隠密伝-
明智光秀。

信長の臣下の一人として、名は知らなくもない。

大した武勲をあげたような話も耳にしておらず、私の印象ではそれほど優れた武将のようには思えない。

「その明智光秀が、何故信長に謀反を?」

「それはこちら側の問題…貴女にそこまで話す必要はない」

私に苦無を突きつけられているにもかかわらず、その点だけ、男は強気に主張した。

まぁ確かに、私にとっては明智と信長にどのような確執があろうが関係のない事。

伊賀隠密は相手の氏素性に関係なく、依頼された仕事のみをこなす。

契約のみが全て。

そこに至る主義や思想は問題ではない。

それに…。

「礼を言う」

私は小さく呟いた。

まさかこんな形で、信長への復讐の機会が訪れるとは。

形式的には暗殺の依頼であるが、私は私怨を果たす事もできる。

礼を言わずにはいられなかった。

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