影を往く者、闇に逝く者-戦国隠密伝-
私は正式に依頼を受ける。

男の説明によると、信長は五月二十九日に羽柴秀吉の援軍に自ら出陣する為、小姓を中心とする僅かの供回りを連れ安土城を発つ予定。

同日、京都本能寺に入り、ここで軍勢の集結を待つらしい。

本能寺。

名こそ寺だが無防備な寺ではなく、天正八年(1580年)年二月には本堂を改築し、堀、土居、石垣、厩を新設するなど、防御面にも優れた城塞としての改造を施されていた。

潜入にはいささか骨が折れるだろうが、明智軍の強襲の混乱に乗じてであれば、不可能な話ではないだろう。

「決行は六月二日」

男は言う。

この日に明智光秀は信長に叛旗を翻すという。


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