影を往く者、闇に逝く者-戦国隠密伝-

信長

早朝。

「!」

物音に目覚めたわしは家来の喧嘩だと思い、近習に様子を探らせた。

すると「本能寺は軍勢に囲まれており、紋は桔梗(明智光秀の家紋)である」との報告。

「…おのれ…」

歯噛みする。

光秀が謀反に及んだ。

天下統一を目前にしたこの時この瞬間、光秀めは何故わしに叛旗を翻したのか。

理由など本人に問わねばわからぬ。

ただ。

「是非に及ばず」

ここでうろたえる程、わしは愚将ではない。

「蘭丸!」

小姓、森蘭丸を呼び寄せる。

「弓を持って参れ、それから槍もじゃ」

「信長様!?」

驚愕の表情を見せる蘭丸。

整った顔立ちは、まるで少女のようにさえ見えた。

「天下の第六天魔王が光秀如きに背など向けられるか」

わしは不敵に笑った。

「表に出てわしがこの手で光秀めを斬り捨てる。蘭丸、続けいっ!」



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