影を往く者、闇に逝く者-戦国隠密伝-
「蘭丸!」

「はい!」

わしの言葉に蘭丸が叫ぶ。

「次は何を!?刀ならば左文字がここに!」

「いや」

わしは笑みすら浮かべて首を横に振った。

「女衆に逃げるよう伝えよ」

「…信長様…?」

怪訝な表情をする蘭丸。

「奥に籠もる」

その時のわしは、どのような表情であったろう。

蘭丸に…微笑んでいたように思う。

「しばし敵を近づけるな。そしてわしが奥に籠もると同時に、火を放つのだ。よいな」

「…………はいっ」

無念。

そんな色を滲ませ、蘭丸が頷く。

「信長様の首、雑兵如きには取らせはしませぬ!」


< 128 / 192 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop