影を往く者、闇に逝く者-戦国隠密伝-
蘭丸にその場を任せ、わしは奥の部屋へと籠もる。

…直後に漂ってくる、焦げるような臭い。

指示通り、蘭丸が火を放ったらしい。

「ふ…」

微かに笑い、わしは畳に座した。

「人間五十年、化天のうちを比ぶれば、夢幻の如くなり…」

静かに呟く。

敦盛。

わしが好んだ一節だ。

まさしく夢幻の如くなり。

わしの望んだ天下布武も、所詮はうたかたの夢か…。

腰に差した脇差を抜く。

無念と言えば無念か…まさかわしが自刃する日がこようとはな…。

柄をしっかりと握り、刃を腹に当てる。

その時。

「うつけ殿」

声が聞こえた。

「介錯して進ぜようか…?」


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