影を往く者、闇に逝く者-戦国隠密伝-
「なんじゃなんじゃ、百合に『木遁の術』の手本を見せただけではないか」

年甲斐もなく、頭領は膨れっ面をして見せた。

「甲斐。お主もお堅いのぅ…まだ十八じゃろう。もっと遊び心があってもいいと思うんじゃが…」

「何を仰います」

俺は腕組みしてもう一度わざとらしく溜息をついて見せた。

「もう十八です。とうの昔に元服を終えた大人です。頭領こそいつまでも子供気分では困ります。伊賀の頂点という自覚をもって…」

「あー、うるさいうるさい」

うんざり、といった表情で頭領は俺の横を通り過ぎていく。

全く、困ったお人だ。

…しかし横を通り過ぎる寸前。

「お主の父親の件…もうしばし待ってくれ」

俺にしか聞こえない程度の声で頭領が耳打ちする。

俺は無言で頷き返した。

…そのまま頭領は里の奥へと去っていく。

「甲斐様?」

百合が小首を傾げて俺の顔を見た。

「何のお話をされていたのですか?」

「いや…何でもない」



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