影を往く者、闇に逝く者-戦国隠密伝-

百合

本能寺の造り自体はそれほど侵入に難はなかったが、明智の軍なのか信長の軍なのか、建物に火を放たれた事で潜入は厳しくなった。

逃げまどう両軍の兵。

といっても、殆どの兵が明智の軍だ。

本能寺には信長の兵は少なかった。

この事からも、明智の謀反はまさしく信長にとって予想外の事だったのだとわかる。

…最早警備の目を盗んで忍び入るなどという必要はなかった。

誰も私には目もくれない。

というか、侵入者の事など気にかける余裕はないのだ。

うかうかしていれば自らもこの本能寺が墓標となる。

逃げるのが一番だったのだろう。

それ以前に、この燃え盛る本能寺に潜入する者がいるなどとは思いもしまい。

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