影を往く者、闇に逝く者-戦国隠密伝-

甲斐

アテにさせてもらう…か。

正直心中は複雑だった。

一年前の天正伊賀の乱の逃避行の最中、俺は初代と遭遇した。

己の矜持を傷つけられた復讐の為、伊賀と実の息子である俺を殺す為に謀反を企てた初代と。

そして俺は初代に完膚なきまでに叩きのめされた。

叩きのめされた挙句、二代目を名乗る資格なしとまで言われ、谷底に蹴落とされた。

その俺を信頼し、アテにすると…。

「……」

俺は静かに目を閉じた。

俺は何の為に半蔵様の下に馳せ参じたのだ。

初代に敗北を喫した泣き言を言う為か。

違う。

拾ったこの命を、最期まで忍道に尽くす。

その為にこの場に集ったのではないか。

「甲斐?」

「甲斐様?」

頭領が、百合が、俺の顔を見る。

俺は再び目を開いた。

「小頭の任務、謹んでお受け致します」

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