影を往く者、闇に逝く者-戦国隠密伝-
具足姿の初代。

距離は離れているが、私と甲斐様には見えた。

…その口端がつり上がるのが。

察するのはすぐだった。

挑発している。

初代は甲斐様に『仕掛けて』いるのだ。

相手と会話の中で心理を突く話術、『五車の術』 。

その中の一つ、『怒車の術』。

相手を怒らせ冷静さを失わせる。

単純なようだが、相手の心理の隙を巧みに突く。

これも立派な忍術だった。

そして甲斐様は、まんまと初代の術中…挑発に乗る。

「甲斐様!?」

私の呼びかけも無視して、初代目掛けて走り出す甲斐様。

「百合!」

即座に半蔵頭領が言う。

「甲斐を追え。冷静さを欠いた奴には、お主の助力が必要だ」

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