影を往く者、闇に逝く者-戦国隠密伝-
その言葉に乗ったのか否か。

「……」

木陰から、装束姿の初代が出てきた。

「死んではおらぬとは思っていたが…徳川についたか…権力者の飼い犬に成り下がるとは愚かな」

「初代、貴様とどこが違うというのだ?」

忍者刀を抜き放ち、俺は構えた。

「わしは違う…全ては成り上がる為の手段に過ぎぬ。秀吉に頭を垂れるのも、甲賀忍軍の小頭に甘んじているのも、全てはやがて天下を取る為」

「……」

変わってしまった。

こうも愚かしい姿に変わってしまったか…。

俺は父上に憐れみさえ感じる。

隠密は影に生き、闇で朽ち果てていく者。

その生涯を暗がりの中で過ごす隠密が、権欲に溺れるか…。

「最早初代を討つのに躊躇いは無し」

その切っ先を初代に向ける。

「抜忍成敗…初代下山甲斐。ここで朽ちろ」

< 175 / 192 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop