影を往く者、闇に逝く者-戦国隠密伝-
刀と槍による攻防と一緒だ。

離れた間合いのうちは有利に働くが、いざ懐に入られると、槍は刀の小回りのよさに対抗しきれなくなる。

この戦いも同様。

短い間合いの手甲を持つ初代は、忍者刀を持つ俺の懐に入れば、その骨法と小回りによって俺を翻弄する。

そして初代には、俺の懐にたやすく入るだけの技量がある。

…動けない。

こちらからは迂闊に仕掛けられない。

互い向き合い、円を描くようにジリジリと動く。

初代の隙を窺うように、緩慢な動き。

…やがて初代が笑う。

「己からは仕掛けられぬか…十三で武田信玄を暗殺した天才隠密様が、なんとも臆病な事だな」

「……!」

わかっている。

挑発だ。

冷静さを欠かせ、初代は術中にはめようとしている。

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