影を往く者、闇に逝く者-戦国隠密伝-
食事が終わり、食器の片付けを始める頃。

「甲斐、甲斐はおらぬか」

家の戸を叩く音と共に、そんな声が聞こえた。

私が扉を開けると。

「おお、百合か」

そこには頭領が立っていた。

「甲斐様ならうちで夕食をとっておられますが…」

「そうか、よかった。ちと甲斐に用事があってな」

頭領は何やら慌てた様子で家の中に入ってくる。

その雰囲気を察したのだろうか。

甲斐様も険しい表情で姿勢を正す。

「頭領、何か問題でも…?」

「うむ」

頭領は場に私がいる事を少し気にしていたようだったが、それでも火急の用件だったのだろう、止むを得ずその場で告げた。

「甲斐、お主の父親の所在がわかった」

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