影を往く者、闇に逝く者-戦国隠密伝-
その時。

「ぬ!?」

別の場所から風切り音を伴って飛来する飛翔物。

初代は馬乗りの体勢を解き、素早くそれを回避する。

倒れたままの俺のそばの地面に突き刺さったもの。

それは磨き抜かれた苦無だった。

かつて俺が愛用していた苦無。

そして今は。

「甲斐様、ご無事ですか!?」

百合の愛用の得物でもあった。

「半蔵頭領の命で参上いたしました。私も加勢いたします」

俺のそばに駆け寄る百合に。

「いや…無用」

俺は身を起こしながら答えた。

代わりに地面に突き刺さった苦無を握り、引き抜く。

「代わりに百合…この苦無をしばし借りるぞ」

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