影を往く者、闇に逝く者-戦国隠密伝-

甲斐

苦無をゆっくりと引き抜く。

傷口から溢れ出した大量の血液が、周囲を真紅に染めた。

音もなく倒れる初代。

最早断末魔すらない。

あの出血だ。

助かるまい。

…これで『下山甲斐』はたった一人となった。

本当の意味で、俺は名を継いだ事になる。

「初代」

俺は最期に、かつて父だった男の亡骸を一瞥する。

「貴方も隠密ならば、その骸をさらすのは恥じる事だろう…ならば」

懐より小さな玉を取り出し、初代の骸に投げつける。

玉は弾け、爆発と共に炎を上げて燃え盛った。

焙烙玉。

今は偉大だったかつての英雄…そして誇りだった俺の父上を弔う炎。

「せめてこれが俺の手向けだ」

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