影を往く者、闇に逝く者-戦国隠密伝-
やがて、先頭を走っていた甲斐様が片手を上げて制止を促す。

素早く茂みや木陰に身を潜める私達。

…目を凝らすと、篝火の明かりの中で城の修繕作業を行う兵卒の姿が見えた。

丸山城に到着。

『かなりの数がいますね』

私が手話のように合図で甲斐様に語りかける。

『別働部隊が仕掛けるまでこの場で待機。物音を立てるな』

甲斐様もまた合図を送って配下の下忍達に指示を出す。

…隠密は正面から戦いを挑まない。

圧倒的な力量差がある場合、正面からの戦いはただの無謀に過ぎない。

武士にしてみればそれが『勇気』であり『武士道』なのかもしれないが、忍にとっては敵の“虚”を突く事こそが『忍術』である。

相手の虚を突くには物事の“変”を読み、“機”を把握する能力が絶対不可欠である。

“変”とは、物事の微妙な変化。

忍の世界観は物事を「それが絶対的」とは見ずに、相対的、流動的に捉える。

“変”を読んで “機”を捉え、そして“虚”を突く。

これこそが忍術である。

逆をいえば、“機”を捉える事ができなければ忍は決して仕掛けない。

機を捉えるまで、焦らずに待てる事。

これも優秀な忍者の条件である。





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