影を往く者、闇に逝く者-戦国隠密伝-
第一幕

百合

山中を駆けていた。

季節は冬。

既に木々に生い茂る木の葉もなく、枯れ枝が露出している。

その枝から枝へ、幹から幹へ。

猿(ましら)の如く、駆ける。

その動きは、およそ人間と呼べるものではなかった。

長きに渡る修練のみが可能とする、人間を超越した獣の如き動き。

蛙のように跳躍し、猿のように木々を跳ね回り、鹿の如く山道を駆け回り、狼の如く喉笛を噛み千切る。

私達はそういうもの。

隠れ世に生き、人の目に触れる事なく事をなす。

私達はそういう存在だった。

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