影を往く者、闇に逝く者-戦国隠密伝-
槍で突いてくる兵卒。

しかし精神的にも肉体的にも追い詰められた兵卒の槍術には精彩がない。

たやすく捌いてみせる。

「おのれ!」

更なる攻撃を加えてくる兵卒。

その目の前で。

「!?」

俺の姿がぶれて見えたに違いない。

たった一人の筈の俺が、二人、三人と増殖して見える。

無論、俺は一人しかいない。

だが増殖したかに見えた俺を見て、兵卒は更に冷静さを欠いた。

伊賀の隠密は妖術を使い、北畠の軍を呪い殺す。

そんな風に考えただろうか。

…種を明かせば何の事はない。

高速で動き回り、残像を見せただけ。

いわゆる『分身の術』という奴だ。

勿論ただ高速で動き回るのではなく、緩急をつけて残像が起こりやすい動きを行えるだけの身体能力が必要となる。

口で言うはたやすいが、並みの体術では使いこなせない。

忍術とは得てしてそういう類のものだった。

< 34 / 192 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop