影を往く者、闇に逝く者-戦国隠密伝-
わずか一刻ほどで、丸山城に集結していた北畠の軍はほぼ壊滅状態だった。

逃げ場を失い炎に呑まれる者、同士討ちの末に果てる者、ようやく真の敵である我々を発見する頃には既に体力も尽き果て、まともに戦える状態ではなかった。

一人の兵卒に対し、二人三人の隠密が突きかかるような状況。

最早戦局は伊賀忍軍の優位で固まっていた。

そんな中。

「甲斐様!」

百合が外を見ながら声を上げる。

「あれを」

彼女が指差した先には、数頭の騎馬隊に護衛されながら逃走を図る具足の男の姿があった。

丸山城修繕の指揮を取っていた、この軍の指揮官。

北畠信雄。

織田上総介信長の実子だ。

「うまく逃げおおせたか」

俺は脱兎の如く馬を走らせる、無様な指揮官の姿を見送った。



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