影を往く者、闇に逝く者-戦国隠密伝-
百合が腰の忍者刀を掴む。

「追いますか?」

「いや…捨て置こう」

俺は首を横に振る。

丸山城を焼き落とすという当初の目的は果たした。

頭領には、敵将の首まで取れとは命じられていない。

それに…。

「北畠の背後には『うつけ』が控えている。下手に藪をつついて蛇を出す必要もあるまい」

ただの兵の損失ならばまだしも、実子を討たれたとなると、総大将が腰を上げるかもしれない。

この戦国の世にあって、天下統一に限りなく近い位置にいる武将を敵に回すのは、如何に伊賀といえども避けたい所だった。

…次第に炎は城全体を舐め尽くす。

長居すれば俺達まで炎に巻かれてしまうだろう。

「撤収する…散!」

俺の掛け声で、下忍達は方々へと散っていった。

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