影を往く者、闇に逝く者-戦国隠密伝-
わしも天下にその名を広めるほどの『うつけ』だが、実子の信雄はそれに輪をかけた『うつけ』…いや、愚物だ。

うつけでも才があるならまだ救いもあるが、うつけの上に能もなければ只の凡人に過ぎぬ。

そしてこの織田の軍に凡人は要らぬ。

「失せろ」

わしは平伏したままの信雄に言い放った。

「能無しに用はないわ。お主のような愚か者はもう子でも親でもない。どこへでも消えるがいい」

「そ、そんな!父上…!」

絶縁を叩き付けられて狼狽する信雄。

その見苦しい姿が尚もわしの怒りを誘う。

「失せろと言ったら失せい!この場でそっ首叩き落とされたいかっ!?」

「ひっ、ひいぃぃぃぃぃっ!」

腰を抜かし抜かし、信雄はわしの前から四つん這いになって消えた。

それでもわしの憤慨はおさまらぬ。

天下布武を掲げるわしに敗戦を味わわせるとは…。

「忌々しきは伊賀者どもよな…」

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