影を往く者、闇に逝く者-戦国隠密伝-
しかし幸い、ウドの大木という言葉がある。

大柄な者は鈍重という喩え通り、男は私から見れば亀も同然の鈍さだった。

槍を引き付け、突き出そうとした瞬間を見計らい。

「がっ!」

私は素早く間合いを詰めて、男の喉元を苦無で斬り付けた!

頚動脈を斬られ、鮮血にまみれながら男は倒れる。

「く…」

だが一人倒したからと安堵している暇はない。

周囲は既に信長の軍勢に囲まれつつあるのだ。

そこかしこから、仲間のものと思われる阿鼻叫喚が聞こえる。

隠密は闇に紛れての奇襲でこそ真価を発揮する。

このような多勢に無勢、しかも正面切っての戦など、不利極まりない。

< 69 / 192 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop