影を往く者、闇に逝く者-戦国隠密伝-
「さぁ頭領…この場は俺に任せてお早く…」

振り向く事なく俺は言う。

「く…」

頭領の歯噛みする声が聞こえた。

「せめて伊賀十人衆が里におれば…」

伊賀十人衆。

多くの隠密を輩出してきた伊賀の里にあって、突出した才を持つ十人の天才隠密達。

しかしその殆どが高齢の為に他界していたり、里を離れていたり、隠居して既に忍の一線を退いている。

我が父、初代下山甲斐にいたっては行方知れず。

いや、或いは信長の軍勢として、この里に紛れ込んでいるやもしれぬ…。

「ともかく頭領、早く行って下さい。伊賀は貴方を失う訳にはまいりませぬ」

「…………すまぬ」

苦渋の決断。

頭領は護衛の下忍と共にその場を駆け出した。



< 73 / 192 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop