影を往く者、闇に逝く者-戦国隠密伝-
第五幕

百合

砦の見張りをしながら、兵糧丸を口にする。

一つ食べれば一日中動き回れると言われる隠密の非常食。

しかしその兵糧丸も残り少なくなってきた。

いよいよ後がない。

…後の世に『第二次天正伊賀の乱』と呼ばれる事になるこの戦は、結論から言えば一週間で戦局は決した。

如何に身体能力に優れ、類稀なる忍術を駆使できる伊賀忍軍とはいえ、やはり数に勝る織田軍には勝てない。

数千対四万。

結果は見えていた。

多くの忍が信長の軍勢の前に命を落とし、伊賀忍軍は劣勢に立たされる。

追い込まれていく伊賀は次々と拠点を奪われ、潰され、火を放たれ、最後には一箇所に集結する。

柏原城。

城といっても小さな砦だった。

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