影を往く者、闇に逝く者-戦国隠密伝-
ひんやりとした風の吹き抜ける山中。

その中でも木漏れ日の差し込む場所に腰を下ろし、俺と百合は休息をとっていた。

懐に忍ばせていた団子状のものを袋から取り出し、百合と分け合いながら食べる。

兵糧の一種で、隠密の携帯食だ。

蜂蜜、もち米などを練り合わせて小さく丸めたもので、腹持ちがよく、一つ食べておけば三日は食わずに済むと言われる。

長期間の任務で食事を取る暇すらない隠密の為に考案されたのだという。

「甲斐様」

百合が俺を呼ぶ。

下山甲斐(しもやまのかい)。

それが俺の名前だった。

正確にはこの名は父上から受け継いだ名。

つまり俺は二代目の下山甲斐という事になる。

父上は伊賀流でも名の知れた上忍で、その中でも最高峰とされる『伊賀十人衆』の一人にも数えられる隠密だ。

俺はそんな父上の下で幼少の折から隠密としての厳しい修練を課せられ、十五の時には既に下忍を率いて任務をこなす『小頭(現在で言う小隊長)』の役目を任されていた。


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