影を往く者、闇に逝く者-戦国隠密伝-
天正元年(1573年)。

武田信玄はこの年に他界している。

その年の二月、野田城攻略直後に体調急変。

甲府へ引き上げる途中、四月十一日に信州駒場にて、五十三歳で『病死』したというのが世間に知られている話だ。

しかし、事実は違う。

その年、伊賀の里に依頼が舞い込んだ。

内容は『武田信玄の暗殺』。

当時全国で五本の指に数えられるほどの有力な武将の暗殺だ。

伊賀隠密とて容易にはいかないほどの難しい任務だった。

暗殺を任せる人選は難航した。

頭領は伊賀の里を離れる訳にはいかない。

初代はその時、別の任務で不在だった。

他の上忍達も、その殆どが里を離れていたり、別の任務についていたりで、信玄暗殺などという大役を任せられる状況にはなかった。

だが一人だけ…たった一人だけ、その役目をこなせる者がいた。

それが当時十三歳だった、まだ下忍の俺だった。

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