えくすぷれすのすたるじあ
「へ?」

チムサは目を丸くした。

エムはある意味人見知りが激しい。
というか、よほど気の合う人間じゃないと話しかけることすらしない。
この酒場でエムと話をする人間といえば、チムサと女主人以外には片手ほどしかいない。

「誰?」

尋ねるチムサに、エムは笑った。

「もうすぐ来ると思うよ。
 ここで待ち合わせしてるんだ」


そのとき。

「お待たせしました」

背後から落ち着いた声が聞こえて、二人は振り返った。
そこには華奢で顔立ちの整った年のころ20くらいの若い男が立っていた。

「やあ、ターヤ」

エムがそそくさと席を勧める。

「彼が?」
チムサがエムの耳元でぼそぼそささやく。
だが、エムはそれを気にも留めずに、ターヤと呼んだ彼に酒を勧めているのだ。

そんな様子に気づいたのだろう。ターヤがチムサに視線を投げかけた。

「はじめまして。チムサさんでよろしかったでしょうか?」

きれいなボーイソプラノ。

「あ、ああ……」
「わたくし、ターヤと申します。
 エムさんからいろいろと伺っております」
「あ、そうなんだ……」

ニコニコと穏やかに微笑むターヤ。

だが、何か引っかかるような気がする。
何かはさっぱり見当つかないのだが。

そして、そんなチムサの思考などまったく気にしないエムが、

「この3人で旅をしようと思うんだ!」

高らかに宣言しちゃったりする。

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