イチ*コイ



 黙るように睨み付けて手を離す。


「…腹筋はわかるけど、何で階段…?」

「何かいい感じになるんだよ。
 あと、正しい姿勢!」

「何かいい感じって、適当な…」


 理由は忘れたけど、やることはあってる。

 パシらされたからな…。


「大森くん、何か目遠いよ?」

「気にすんな。間食すんなよ!?」

「はい…」


 あと何かあったっけかなー。

 さすがに忘れてきてんだけど。

 あぁ…つかねむ。


「ふああぁぁ…っ、あー!」

「おっきぃ欠伸…」

「うるせっ」


 頬杖をついて瞼を下ろした。

 意識が墜ちていく中、優しい声が微かに聞こえた。

 その声は、多分…おやすみって…言った。







「…く…!…ん!おぉ…!」

「――っ」

「もりく…ね、」


 …誰だ、この声…。

 乃亜…か?


「の…」

「――大森くん!起きてよ…っ」

「…美華?」


 どアップで写るのは黒縁眼鏡の女。

 あぁ…この眼鏡もなんとかしねぇと。



< 10 / 238 >

この作品をシェア

pagetop