イチ*コイ



「さいってー…」


 溢れ出る涙を零しながら、美華が走って行く。

 右手の甲で押さえたまま、それを見送った。

 ただ…俺は、好きなだけなのに。

 何でこんなに上手くいかないんだろう…。


「斗真ぁ、大丈夫??」

「頬叩くなんて九条さんも酷くない?」


 群がってくるバカ女共。

 美華の…悪口言うんじゃねぇ。


「…黙れ、あいつの悪口言うんじゃねぇ」


 思いっきり睨み付ける。

 フン、固まるくらいなら近付いてくんな。


「おーい、女の子には優しくしろよなー」


 視線をずらせば、徳永がいた。

 さっきのイライラが蘇る。

 ちっ…むかつく。


「はーい、じゃあ保健室にでも行こうか?」

「は、誰が行くかよ」


 踵を返して教室に向かう。

 こんな奴に付き合ってられっかよ…。

 強く捕まれる手首。


「頬赤くして言うなよ。
 冷やさなきゃ腫れるぞ」

「ちょ…離せっ!」

「はい連行ー」


 うっぜぇぇぇぇっっっ!!!!

 年上だからか、引き摺られていく。

 これでも力あるほうなのに…。



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