イチ*コイ







 ちょこちょこと俺の後をついてくる美華。

 アヒルの子供みてぇ…ふ。

 イブだからか、いつもより確実に人が多い。


「おい、」

「っ…あ、何…っ?」

「…隣来いよ、危ねぇだろ」


 もしこれでナンパとかされたらそいつ殴る自信がある。

 そんな俺の考えに気が付いたのか、つつつ…と近付いてくる。

 手、繋ぎたいけど…それはさすがに無理だし。

 映画館もやっぱ混んでて、仕方ねぇけど受付まで連れていく。

 1人にしといてナンパされたりしたらむかつくし。

 ぱっぱと生徒手帳を出して金を払う。


「あっ…お金、」

「後で廉からぶん取るから気にすんな」

「でも…」


 無視して中に入る。

 もちろん、手首は掴んで。

 出来るだけ真ん中の席を取って、頬杖をつく。

 上映までお互い無言で待つ。

 気まずい雰囲気が消えたのは、上映のブザーが鳴ってからだった。

 予告通りに進む映画。

 好きなのに、気持ちを伝えられなくて日本と海外とで別れる。

 男目線で進んで、忘れられないまま10年後…。



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