イチ*コイ



 思った通り、美華は遅くて

 映画館を出てすぐに掴まえた。


「ごめ、離して…!
 乃亜が、乃亜は…っ…」

「乃亜なんて関係ないだろ!?
 俺とアイツは別れてんだよ!」


 ぎゅっと手首を握る。

 細くて、折れちまいそうな手首。

 美華は目に涙を溜めていた。


「ごめんなさい……っ」

「何で…っ」


 手首を引っ張って、腕の中に閉じ込める。

 閉じ込めた美華は思った以上に小さくて、震えていて

 そんな美華に何も出来ないのかと、泣きたくなった。

 …随分俺も人間らしくなったもんだな。

 他人なんて…どうでも良かったのに。

 お前だけは特別なんだ…。


「聞かせろよ…何でそんなに我慢すんのか」

――どうして乃亜の良いなりになるように育てられたのか。


「っ…それは、」

「俺がお前を楽にしてやる。
 お前を苦しめる奴から守るよ」


 そう、だって俺はどうしようもなく

 身体を離して視線を合わせる。

 涙に濡れる大きな瞳。

 つっても、そこまでデカイわけじゃねぇ。

 これは贔屓目だろうし、普通サイズだ。



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